グリーン・アントレプレナーシップ研究寄附講座

お知らせ

2024年11月13日 グリーンアントレプレナーシップ講義 第4回「2050年カーボンニュートラルに向けて」IHIが描く未来のエネルギー戦略 を開催しました

2024年11月15日、京都大学の「グリーンアントレプレナーシップ」講義第4回が開催されました。今回の講義では、株式会社IHIの西山裕一氏(企画管理部 企画グループ 主査)と佐藤勇太氏(資源エネルギー環境事業領域 企画管理部グループ長)をお迎えし、企業が取り組む最前線の脱炭素技術とエネルギー戦略について学びました。ファシリテーションを務めたのは、軽部客員教授と山田教授。両氏の進行のもと、IHIの取り組みとエネルギー業界全体の課題について活発な議論が繰り広げられました。


IHIが挑む「2050年カーボンニュートラル社会」

4つの事業領域と成長戦略

西山氏の冒頭説明では、IHIの事業全体像が明らかにされました。創業170年を迎えるIHIは、「資源エネルギー環境事業」「社会基盤事業」「産業システム・汎用機械事業」「航空・宇宙事業」の4つの柱で成り立っています。特に、カーボンニュートラル実現の鍵となるのが「資源エネルギー環境事業」です。

「アンモニア燃料」や「カーボンリサイクル技術」は、脱炭素社会へのトランジションにおける中心的な役割を果たしています。これらの技術は、エネルギー供給の安定性を確保しつつ、CO₂排出削減を目指すものです。


「アンモニア燃料」の可能性と課題

佐藤氏からは、アンモニア燃料がもたらす可能性について詳細な解説がありました。アンモニアは燃焼時にCO₂を排出しないため、ゼロエミッション燃料として期待されています。IHIは、燃料アンモニアを利用した火力発電の混焼実験を進めており、碧南火力発電所で20%混焼の成功を収めました。この実験は、既存設備を活用しながら脱炭素化を進める現実的なアプローチとして注目されています。

一方で、アンモニア燃料にはいくつかの課題もあります。NOx排出の抑制やエネルギー効率の向上といった技術的課題に加え、毒性の高いアンモニアの安全な取り扱いやコスト面での課題が指摘されました。

「アンモニアをただ燃やすだけでなく、製造、輸送、廃棄までを含めたバリューチェーン全体を考えなければなりません」と佐藤氏は述べ、IHIが目指す包括的な戦略を説明しました。


データで見るエネルギーミックスの現実

西山氏は、再生可能エネルギーの導入拡大における現実的な課題をデータに基づいて解説しました。

「日本は、平地が少ないという地理的制約の中で、既に国土面積あたりの太陽光発電導入量が世界一です。それでもエネルギー需要を満たすには十分ではありません」と西山氏は指摘します。また、火力発電の即時停止が電力供給に与えるリスクについても触れ、「カーボンニュートラル社会を目指すには、再エネと火力発電、さらには原子力のバランスを考えるエネルギーミックスが必要不可欠です」と強調しました。

具体的な例として、2023年のある雨天日のデータが示されました。この日は、火力発電がなければ日本の主要都市で電力供給が7割不足するという結果が出ており、エネルギーの安定供給の難しさが浮き彫りになりました。


活発な議論が繰り広げられた質疑応答セッション

講義の後半は質疑応答の時間。受講生たちは熱心に質問を投げかけ、IHIの両氏が一つひとつ丁寧に答えていきました。

  • NOx排出抑制技術
    NOx問題に対しては、酸素と結合しない燃焼条件を作る技術や後処理装置の導入がかなり堅牢な科学的実証研究と開発を通して、進んでいる豊富な逸話が共有されました。
  • 人材育成の取り組み
    OJT(職場内訓練)、大学寄附講座での学習機会提供、社内インターンシップなど、リスキリングの具体例が紹介されました。
  • 脱炭素技術の国際競争力
    技術力を国際標準化の場でいかに展開するかが議論され、グローバルな地政学的なブロックごとの国家間の競争を前提とした企業としてのルールメイキング、制度戦略の重要性が共有されました。

若い受講生の中には「知れば知るほど課題が多い」と率直な感想を述べる声もあり、それに対して軽部教授は「課題が複雑だからこそ、解像度を上げて長期的な視点で考える必要がある」と応じました。


次世代へ向けたメッセージ

西山氏と佐藤氏は、「企業の挑戦は未来の社会の在り方を大きく左右する」とのメッセージを残し、持続可能な社会の実現には若い世代の力が欠かせないことを強調しました。

今回の講義は、環境技術の最前線を知るだけでなく、伝統的企業や大組織が地球規模の課題解決への考え方や長期的な視野の重要性を学ぶ機会となりました。


おわりに

京都大学のグリーンアントレプレナーシップ講義は、地球環境問題を広義の経営学やビジネスの視点から捉え直すユニークなMBAプログラムです。次回講義では、地域社会におけるグリーンイノベーションの事例が紹介される予定です。持続可能な未来を切り開く視座をさらに広げていくこのシリーズに、どうぞご注目ください。


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